こんにちは〜。
本日もブログをご覧いただき、ありがとうございます!!
本日もショートショートを書きました!!
短くて読みやすい内容なので、ぜひ読んでいってくださいね!!
Twitter、インスタのフォローもよろしくね!!
Linktree

『生産工場』
『それでは、これから脳内の情報をこのメモリースティックにコピーしていきますね。』
真っ白な部屋の中で、白衣にマスク、白の医療用キャップを被った、おそらく30歳くらいの看護師にそう告げられた。
僕はリクライニング式のいすに深く腰掛けた状態で、前髪のくせ毛を触りながら頷く。
『大丈夫ですよ、楽にしていてくださいね。脳の情報をコピーするだけです。田中さんの記憶がなくなるわけではありません。2個だったものが3個になるだけの話ですよ。』
今日まで医者に聞かされた内容の話を、もう一度聞かされる。
『はい。ありがとうございます。』
再生医療が発達した現代社会では、もとあった臓器が病に侵されたときにそれを元に戻すのではなく、新しく作ったものと入れ替えるというのが主流になった。その中で、自身のクローン人間をいくつかストックしておき、必要に応じてクローンから臓器を取り出すのが普通になっていった。
最近ではさらに技術が発展し、患者に最適化された治療を行うため、オリジナルと同じ記憶を持つ方がいいのではないかということになった。
そこで、オリジナルの脳の情報を電気信号に置き換えて、コピペする技術が作られたのだった。
ピー、ピー、ピー
頭の中に、耳鳴りのような音が直接的に聞こえているような感覚がする。
自身の記憶を写し取られて電気信号に起こしているのだろうなとぼんやりと考える。
『もう少しですよー。動かないでくださいね。』
内容に対して随分と陽気な看護師の声が遠くの方から聞こえる。
ピー、ピー
耳鳴りがだんだんと遠ざかっていく。大切なものが遠ざかっていくような感覚がする。
ピー
『はい。お疲れ様でした。問題なく写し取れましたので、今回の診察の方は以上になります。気をつけて帰ってくださいね。』
写し取れてしまうことがむしろ問題なのではないのか?とは思いながらも、おとなしく頷いて椅子からおり、荷物をまとめてその部屋を出ていった。
背中越しに看護師が僕に声をかけた。
『出口は、ここの廊下をまっすぐ進んでいただいた突き当たりの扉になります。』
その看護師は、なんだかか寂しそうな声で僕にそういった。その声は僕が思っているよりも、もう少し若いのかもしれないと感じさせた。僕と同年代なのかもしれない。
『ありがとう。またどこかで会えるといいね。』
僕は少し丁寧に、そう声をかけた。
看護師は、医療用キャップからわずかにはみ出している前髪を触りながら頷く。
看護師の表情は読めなかった。
僕は正面に向き直って、出口に向かってまっすぐに歩く。
部屋と同じかそれ以上に真っ白な廊下は、間違いようがないくらいにまっすぐな一本道で、たしかに突き当たりに出口の扉が見える。
扉だけは真っ黒だったので、遠くからも認識することができた。
その扉は、これが突き当たりであるということを定義するような、清々しいほどに黒い扉だった。
真っ白な廊下の両側にはいくつもの部屋の扉があった。これらの扉の先には何があるのだろうか?
ときどき、大きなものが落ちるような大きな機械音がする。
おそらくこの施設は、何かの生産工場のようだ。
部屋の様子が見える小窓があったので歩きながらそちらをチラリと見てみた。
そこには、蚕の眉を拡大コピーしたような2メートルもないくらいの、包帯でぐるぐる巻きにされた何かの材料が山積みにされていた。
思っているよりも大きなものを作っているのかもしれないと僕は思った。
まあいいか。そんなことよりも、家に帰ったら最高級の鯛のお刺身があるんだった!養殖だけど、そのおかげで僕でも食べられるのだからありがたい限りだ。
それなら早く家に帰ろう。僕はそう思った。
歩くペースを上げて突き当たりの黒い扉に辿り着いた。ノブに手をかけて勢いよく外へと飛び出した。
外は赤かった。
とても赤かった。
ガチャン
後ろ手に扉が閉まる音がした。
何か大きなものが落ちる音がした。
終
SNSリンク
Linktree

インスタ

X,Twitter
TikTok
Threads
YouTube
YouTubeサブ
ニコニコ動画

PeDeの日常ブログ

Podcast PeDeのオールナイトキャスト

ホームページ
PeDe portfolio

note
PeDe|note