短編小説『副作用』【ショートショート(2041文字)】

小説

こんにちは〜。

ショートショートを描きました!!

2041文字なので3分くらいで読めます。

よろしくお願いします!!

『副作用』

『血圧が少し高くなっていますね今回は打撲による膝の痛みもあるということで花粉症の目の痒みを抑える目薬と合わせてこれらのお薬まとめて処方箋で出しておきますね。』

医師がパソコンのキーボードを打ちながらパソコンの画面に無機質に、消化試合のように言う。

感情がこもらない音読のようで、内容がイマイチ頭に入ってこない。

『あー、はい。』

医師は続ける。

『ではお薬を出しておきますね処方箋が受付で出ますのでお持ちくださいねそれではお大事に』

なんの抑揚もなく、50代くらいの白髪混じりの医師が患者に向かって、これまでに何千、何万回といってきたのであろうセリフを右から左へと言った。

『次の方どうぞ』

隣にいた看護師が医師にならって、言い終わるが先かのタイミングで続けた。

私はあわてて荷物をまとめて診察室を出る。

ごった返した待合室で、受付に診察料金の支払いを済ませて、処方箋を受け取り、受け取った処方箋に目を向ける。

『処方箋内容

6月27日

オールマイト2mg  1回1錠 14日分』

ちょうど100年ほど前。

アメリカのマサチューセッツだか、カリフォルニアなんたら大学だかの有名な大学が、このオールマイトという薬を作った。

あまり詳しいことは分からないが、どうやらこれを飲めば、古今東西のあらゆる病気や怪我に効くという代物らしい。

それからというもの、人は病気や怪我で死ぬことは完全になくなった。

どんな病気でも怪我でもこれ一つで治るのだから、世界は平和そのものだ。

私は処方箋を受付の横にある専用の機械にスキャンして、自動販売機でジュースを買うように、オールマイトを機械から受け取った。

以前はこの処方箋を、薬局というところへ持って行き、薬剤師というものから薬を受け取っていたのだが、もはや出る薬は1種類のみ、単にオールマイトのみであるからそんな高尚な仕事など、この世界には要らない。

要らない仕事は無くなって、世界はさらに効率的に、さらに完全な世界平和へとまた一つコマを進めたというわけだ。

『おかえりなさいませ。』

家に帰るとAIの人工音声が私に語りかける。

『ただいま。』

特にしたいこともないので、なんとなくAIと会話をする。

『何か面白い話をして下さい。』

『はい。本日14時に国会で医師と看護師を廃止することが決定しました。』

私はさっきまでいた診察室をふと頭に浮かべる。

『また職業廃止法の影響ってことかい?』

AIは答える。

『はい。

あらゆる病気や怪我はオールマイトで治るため医師や看護師は不要です。』

『14時01分からは国が運営する医療システムに頼めば、オールマイトの配達がされ、自宅にいながら完全な医療が提供されます。』

オールマイトが発見されてから5年くらいしたタイミングだった。

社会に不要な職業を廃止する職業廃止法というものが日本で可決された。

それからというもの、職は順番に淘汰されていった。

製薬会社はオールマイトを作る会社以外は全て倒産したし、その影響を受けた会社がドミノ方式で順番に倒産していった。

それまで均衡を保っていた世界経済は大きく崩れ、世界大不況に陥った。

しかし問題はない。

なぜなら我々にはオールマイトがあるから。

実際、職を失ったものは経済的に困窮し、一時的に栄養失調になったりもしたし、精神を病んだ者も多くいた。

しかしそれもオールマイトがあれば、大した事ではないのだ。

不況によって精神を病んでも、経済的に困窮しても、オールマイトがあれば健全な世界は相変わらず研ぎ澄まされていく。

オールマイトは栄養失調も精神疾患ですらも何もかも全てを解決する。

あらゆる不健康はこの世界には認められない。

何もない世界。

完全に真っ白な世界。

それが完璧な世界である。

それこそがこの世界の結論であった。

AIが続ける。

『今日はあなたの183回目のお誕生日です。

おめでとうございます。』

『やめてくれ。もう終わらせてくれ。』

私は何を言っているのか。何と喋っているのか。

AIが何もない部屋に向かって答える。

『大丈夫ですか?

大丈夫です。

我々が最新の医療デリバリーシステムに注文をします。』

よかった。

私はどうやら心の調子が悪いらしい。

いつからおかしかったのだろうか?

まあいい。

オールマイトを飲めば心の不健康は元に戻るのだから。

『あー、大丈夫。今日もらったオールマイトがあるからそれを飲むよ。』

AIが答える。

『それは良かったです。

何か困った事があればいつでも仰ってくださいね。』

『ありがとう。困ったことがあったらすぐに言うよ。』

私は洗面所へ行き、大量のオールマイトを鷲掴みして口の中へ放り込んだ。

鏡の向こうには知らない物体が立っていた。

オールマイトは今日も全てを治してくれる。

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