本日はショートショートを書きました。
よろしくお願いします!
『マッチングアプリ』【ショートショート】
『マッチングアプリ』
“この会員は人気会員です。”
生クリームがこれでもかと載せられたパンケーキ越しに写った、自分の向かいの席に座っている友達が、知らない間に撮っていましたというようなカフェでの写真風の写真には、フォークとナイフを両手に握った満面の笑顔の写真と、彼女の丁寧な説明文が載せられている。
スマホ画面を下にスライドする。
“いいね数 1678
はじめまして♪✨
プロフィールをご覧いただきまして、ありがとうございます。🙇♂️
家と職場の往復だけで出会いがなく、友人に勧められて、思い切ってマッチングアプリを始めて見ました!😆
正直、マチアプをしたことがないので、考えすぎて返信が遅くなりがちです!
ごめんなさい!!🙇♂️
将来を見据えた方とお付き合いしたいと考えています。
遊びの方はごめんなさい!!😭
趣味はアニメを見ることで、好きなアニメはブルーマウンテンです!🤣
最近は、ブルーマウンテンのリリが好き過ぎて推し活してます!
性格は明るくて、優しいとよく言われます。
最後まで読んでくれてありがとうございました♪”
ブルーマウンテンは最近流行りのアニメで、小さな社会現象にもなっている大人気アニメだ。
ここ10年くらいでアニメ好きに対する視線はかなり柔らかいものになった。
以前はいわゆるオタク、悪い意味でのおとなしさを伴った、なんとなく触れにくいものだったが、現在ではそう言った偏見も無くなった。
そのおかげで、アニメも徳の高い教養的産物になり、ブルーマウンテンを知らない人は、逆にどこか引け目を感じるようになった。
僕はそんな現代について、アニメにすら逃げ道がなくなったようで窮屈に感じてしまう。
本当に慣れていない人間が、マッチングアプリをマチアプなんて略すんだなあ。と思いながら、興味なしの方向へ画面を左へスライドした。
ソファの上で、3日連続で着ているヨレヨレになったスウェットを身にまとい寝転びながら、着飾ったファッションに甘ったるい見た目のスイーツが一緒に写った、『かわいい』という強力な盾を背負う女の子たちの写真を、次々に左側へスワイプする。
10年前は出会い系アプリという名前だったそれは、マッチングアプリという横文字に倒れることで、若者を中心に絶大な市民権を得るようになった。
最近の調査によると、今となっては3組に1組のカップルは、マッチングアプリを経由して知り合ったというから驚きである。
それまでにも出会いは無く、困っていた層はたくさんいたと思うが、出会い系アプリという響きが、彼らの尊大なプライドを踏みとどまらせていた。
しかし、時代の流れとともに、この前に立ち塞がる巨大な壁が横文字という比喩を伴って倒れてくれたことで、大衆の心を強烈に掴む代物となった。
スマホ1つでなんでもできる時代。
メールにゲーム、支払い、動画、音楽、そして恋人探し、というわけだ。
スマホを使ったエンタメの延長線上に存在する恋愛は、小指に赤い糸では無く、明確な意思を伴った人差し指によって意図的に進行される。
そこに偶然性はなく、狙い澄ました両者が互いに死力を尽くし、切磋琢磨している。
好きなアニメ、音楽、映画がコンテンツとなり、その本質的な内容ではなく、誰かが言った高尚な感想をなぞることに価値を見出す。
その積み上がりの産物として、恋愛が存在するのならば、僕たちは一体誰に向けてなんのために生きているのかすら、とても曖昧になっていく。
スマホの画面が通知音を鳴らす。
昨日いいねを送った相手と、マッチングが成立した通知を受けた。
“おめでとうございます!
マッチングが成立しました。
48時間以内にメッセージを送るとカップル成立率が75パーセント上がります!!
まずはメッセージしてみましょう!”
75パーセントという、高いのか低いのかわからない数字に、対してすら人差し指が嬉しそうにメッセージをタイプしている自分が本当に嫌いだ。
“はじめまして!✨
マッチングありがとうございます♪
ゆきさんは音楽がお好きなんですね!笑
好きなアーティストを教えて欲しいです!!”
“笑”と真顔でタイプする。
この「狙い澄ました恋愛」にどこか違和感を覚える僕がいる。
それは彼女たちの行為そのものに対してではなく、画面をスライドし、”笑”と真顔でタイプする自分自身への違和感かもしれない。
手軽で便利な出会いの形に乗ることを、どこかで浅はかと見下している自分。
それが、ソファに寝転びスマホをいじりながらも、そんな便利さの恩恵を否定できない日常を送る、矛盾した自分自身の姿だ。
そうこう考えているうちに、ふと気づいた。画面上に映るのは、みな同じ笑顔、同じ構図、同じような明るくて優しい自分語り。
まるでテンプレートのようなプロフィールが並ぶ。
電脳世界を通じることで選択肢が広がったようで、それらにそれほど違いがない。
僕にはむしろ、選択肢が狭まっているとも言える気がしてきた。
しかし、これは彼女たちだけの問題ではなく、僕自身にも当てはまる。
興味なしと指を滑らせる僕も、何かから目を背けているように思えてならなかった。
僕もまた、完璧なテンプレートを望む傾向があるのだろう。
完璧な恋愛というテンプレートを構成する、ほんの一部でしかない自分は、最小単位のテンプレートとして、今日も一生懸命にいいねを送る。
これがこの時代の形なのだろうか。
それとも僕自身の歩み寄りの足りなさか。
少し疲れてしまい、スマホを枕元に置いたまま、視線を天井に向ける。
きっとこのデジタルの海の中で、僕のように迷いながら漂っている誰かもいるはずだ。
その誰かが、もしも偶然僕に出会うとき、きっとそこには意味があるだろう。
そんなことをぼんやりと考えながら、夜の12時を指した時計を横目に、僕はゆっくり、健やかに目を閉じた。
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