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【ショートショート】『承認欲求』
2時間映画のエンドロールが終わり、真っ暗な空間の足元がほのかに明るくなる。
落とした視線の先にあるシアタールームの出口のあたりには、従業員が誘導灯を左右に振りながら、暗闇の中で動く人たちを誘導していた。
僕は夜行性の魚を捕まえる漁船ってこんな感じだったなあ、とぼんやり思った。
21時10分開演のレイトショーで見るSF映画は、日中に見たときよりも浮遊感が漂っていた。
同じ映画を見るなんて、お金の無駄だと考えている僕が、この映画を2回見ようと思った理由は大きく2つある。
ひとつは、なんとなくそうした方がいいと思ったからで、もうひとつは、どうしてそんなことを思ったのか不思議に感じたからだ。
宇宙に人類が移り住む計画の中で、火星に送り込まれた10人の宇宙飛行士が、不思議な現象に誘われて、宇宙という未知の大自然に翻弄されるが、なんやかんやあって最終的にはハッピーエンドという、とてもよくある話だ。
なんということはない話。
たしかに、アカデミー賞的なありがたい賞を受賞している作品らしいが、1年に1作品選ばないと、なんとか協会のなんとか会長に叱責を受けるので仕方なく選びました。まあ別にこれじゃなくても問題はないんだけれどもね。という程度の熱量で選んだんだろうなというものだった。
しかし、1年に1作品という特別な後ろ盾を貰った一般的なその作品では、本当に大切なものは何なのか?というメッセージを投げかけていた。
僕は観客がほとんどいなくなり、従業員が掃除しながらこちらをチラチラと見る視線を感じながら、明るくなったシアタールームでそのことについて考えていた。
本当に必要なものってなんなんだろう。
考えれば考えるほど、この世に必要なものなんてないと思ってしまう。
必要なもの。必要なもの。僕は思いを巡らせた。
お金。これはいる。
水。これもいる。死んでしまう。
領土問題。これはいらない。というか無いほうがいい。
マクドナルドのポテト。これはいる。絶対にいる。1番いる。
次はなんだろう。
映画。映画はいる。無かったら、今ここにいる自分を否定することになる。
自己否定は幸福の対義語だと、僕の好きな作家が言っていた。言ってなかったかな。まあとにかく、そんな方向性の事を言っていたんだろうと思う。
そのとき、後ろから左肩を3回軽くたたかれる。
僕はびっくりして後ろを振り返ると、そこには僕と同じ20歳くらいの女の子が立っていた。
リクルートスーツを着て、目鼻立ちのはっきりした化粧をした彼女は、こちら側を暗闇の中から、屈託のない澄んだ瞳で見ている。
暗闇の中でもはっきりとわかるくらいには、就職活動中である事をありありと表すような、そんな雰囲気を纏っていた。
『あのー、突然すみません。鶴田悠馬さんですよね?』
僕は全身に少し力を込めてから、適切な距離が保たれている事を確認する。
彼女は続ける。
『いや!ち、違うんです。わたし、この間ネオジェン製薬の最終面接で一緒の集団面接を受けた、鶴岡麗奈です!』
何が違うのかは分からなかったが、苗字に鶴が入っている女の子はたしかにいたような気がする。ただ、正直そこまでの確信はない。
理由はいくつかあるけれど、そこは自分の第一志望で緊張していたからだ。
まだ結果を知らされていないが、なんとなく今回は縁がないんだろうなあ、とは感じていた。
『あー、鶴岡麗奈さんね!覚えてます。覚えてますよ!この間は、と言っても本当に2日前ですけど、お世話になりました!』
僕は就活を通して、ほんの半年ぐらいという短い期間で、知らない人との関わり方のスキルが格段にレベルアップした。
このスキルはもちろん、いらないスキルだ。
僕はマクドナルドのポテトが食べたいなあと思った。
『本当ですか!嬉しいです!ありがとうございます。実は、個人的に苗字に鶴が入ってるのがすごく印象的で、なんだか名前を覚えてしまったんです。そしたら今日、映画が始まる前にぼんやりしていたら、1シート前にいるからびっくりしましたよ!』
『そうだったんですか!なんだか運命を感じますね!』
僕は、今ならポテトのLサイズが今なら期間限定で280円で食べれる事を思い出して、とても幸せな気分になった。
『1列前に鶴田さんがいるなーと思ったら、映画に集中できなくて、この映画って要するに何が言いたかったんですかね?』
僕は1列前に顔見知りがいると、内容が入ってこない程度の内容ですよ。と言いかけてやめた。
『えー!もったいない!こんなに面白かったのに!実は僕、昼間にも同じ映画見たところで、これで2回目なんです!鶴岡さんももう一回見たら理解できますよ!』
彼女は納得したように軽く頷いたあと、話題を転換した。
『この間の面接どうでした?一昨日の面接が終わってすぐに、電話で内定いただいたんです!』
僕は、なるほど。と思いながら返す。
『そうなんですか!おめでとうございます!僕はまだ結果が返ってきていないので、羨ましいです!でも鶴岡さん、面接の時から優秀そうで僕は個人的に印象的だったんです。だからきっとこう言う人が内定もらえるんだろうなって思ってました。』
羨ましい、個人的、優秀、印象的、内定、という僕にとってはポテトよりもはるかに重要度の低いワードを意識的に並べる。
『ありがとうございます!ネオジェン製薬が第一志望だったので本当に嬉しくて!突然なんですけど良かったらこの後、マクドナルドにポテト食べに行きませんか?今ならポテトのLサイズが280円なんですよ!』
僕はすごくポジティブな人だなと感じながら、ポテトは食べたかったのに、なんとなくやんわりと断った。
大した理由はなかったけれど、そのほうがいい気がしたからだ。
『嘘です。嘘です。そもそも、もう12時前ですから、電車無くなっちゃいますよね!では!またお会いしましょうね!突然声かけてすみませんでした!』
こう言うと、彼女はきっかけを得たように、シアタールームから出て行った。
僕は彼女がこの映画を見ることは2度とないんだろうなと思った。
それから1ヶ月が経って、内定者イベントに参加した。
渡された内定者の名前の欄には、鶴岡麗奈の名前はなかった。
そのイベントの帰りに寄ったマクドナルドで、僕はポテトのLサイズを頼んだ。
あの日見た映画のメッセージと鶴岡麗奈の事を思い出しながら、どうでもいい事を繰り返す事ができることと、Lサイズで280円のポテトを提供することが本当に必要なことなんだと思った。
280円で提供することで、はじめて認めてもらえるLサイズのポテトの魅力は、この世の中にある280円のどの食べ物よりも美味しいと思ってもらえるということだ。
この魅力に気づいた僕は、いてもたってもいられなくなって、これを文章にすることで多くの人にこのことを知ってもらいたいと思った。
そうして多くの人に読んでもらうことこそが、僕の存在価値なのだから。
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